大阪高等裁判所 昭和49年(ネ)2201号 判決
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴人は、「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。」との判決を、被控訴人は、「主文と同趣旨」の判決を求めた。
当事者双方の主張及び証拠関係は、次に付加するの他、原判決事実欄記載の通りであるから、これを引用する。
一、事実関係、
当審に於て、
控訴人は、
(一)、昭和四四年度版五十音別番号簿の第四表紙に連合広告として掲載された「自鳳」と「京都グランドホテル」とは資本的にも人事的にも、全く関係のないものであるから、同一資本の事業の場合を除く一切の連合広告を掲載しないとの約束に違反するものであるし、仮りに被控訴人の主張するように一切の連合広告を禁止するのでなく、例外的にこれをなしうる約束であつたとしても、右連合広告は被控訴人の主張する例外の場合に該らない。
(二)、被控訴人は、控訴人よりの昭和四四年度の前記不都合についての異議申入れに基き、昭和四五年春頃控訴人に対する昭和四四年度の広告料の請求権を放棄した。そのことは、昭和四五年七月二日行われた同年度の広告の入札に際し、当時の被控訴人の係員藤原友吉がこれを言明していたし、また広告料は通話料と併せ請求すべきものであるのに、被控訴人は控訴人に対して、昭和四四年一一月以降は通話料のみの請求はして来ているが、本件広告料の請求をして来ていないことによつて明かである。
と、述べ、
被控訴人は、
(一)、連合広告の禁止は、すでに述べた通りの趣旨目的のものであつて、控訴人主張のように、同一資本の事業のものを除く一切のものを禁止するのではなく、掲載権転売防止の趣旨に反しない場合は例外としてこれを認める約束であつたものである。
現に昭和四一年度以降同四四年度迄の間毎年控訴人の経営する「ナイトクラブメトロ」と、資本を異にする控訴人代表者太田清個人の経営する「クラブフラミンゴ」との連合広告を掲載しているのである。
従つて、昭和四四年度の広告掲載には控訴人主張のような約束違反や不公正な事実はない。
(二)、控訴人の前記(二)の抗弁事実は否認する。
本件のような広告料は通話料と併せて請求するのが通常ではあるが、控訴人との間に本件の紛争が起つたので被控訴人はこれを別個にしたまでのことであつて、本件広告料は、しばしば口頭または文書で控訴人に請求している。
と、述べた。
二、証拠関係(省略)
理由
一、請求原因事実は、当事者間に争いがない。
二、そこで控訴人主張の抗弁について判断する。
(一)、被控訴人に本件広告掲載契約に違反する債務不履行がある、との主張について、
たとえ、被控訴人に控訴人の主張するような所謂連合広告に関する違約があり、これが本件契約の債務不履行に該るとしても、被控訴人が約定した控訴人の広告を掲載しなかつた場合と異り、これを以つて控訴人が本件広告料の支払を拒みうる理由とはならないことは〓説をまたないところである。
それのみでなく、本件契約で控訴人主張のような連合広告に関する約定がなされたことを認めうる証拠はなく、原審での証人太田孝の証言及び控訴人代表者本人尋問に於ける本人の陳述中には控訴人の主張に添う部分があるが、これらは後記証拠及び弁論の全趣旨に徴し信用できない。
成立に争いのない甲第一号証と原審証人白岩昇の証言とによると、被控訴人は、その発行する電話番号簿に掲載する広告について、昭和四四年前後に於ては広告主の募集、契約の締結等の業務を訴外財団法人電気通信共済会に委託し、公開入札その他の方法で行つていたもので、本件広告掲載契約は右公開入札により締結されたものであるところ、その契約では同一広告紙面に二社以上の併記(所謂連合広告)は原則としてしないことが約されたが、それは落札者がその権利を利を得て他に転売することを防止するためであつて、そのおそれのない場合は、必ずしも連合広告の掲載をしないこと迄をも約したものでないことが認められるのである。
従つて控訴人のこの点の抗弁は理由がない。
(二)、不公正なトラブルが起つた場合被控訴人は広告料の請求をしないとの確約の主張について、
原審での証人太田孝の証言及び控訴人代表者本人尋問に於ける同本人の陳述中この点についての控訴人の主張に添う部分は、到底信用することができないし、他に右主張事実を認めうる証拠はないから、控訴人のこの抗弁は採用しえない。
(三)、被控訴人が本件広告料請求権を放棄したとの主張について、
これについての控訴人の主張する事実は、これを認めうる何らの証拠はなく、却つて成立に争いのない乙第一、二、号証によると、控訴人の代表者太田清が、被控訴人に対し、昭和四五年一一月二四日付内容証明郵便で、本件広告料の支払に関しては、未だ控訴人と被控訴人間で話し合いの途上にあり、控訴人としては納得できれば支払をする旨を書き送つている事実が認められるから、むしろ、被控訴人が昭和四五年春頃本件広告料請求権を放棄した事実のないことが認められる。それ故控訴人のこの抗弁も理由がない。
(四)、消滅時効の抗弁について、
被控訴人は日本電信電話公社法に基いて設立せられ、同法に規定する業務を行う所謂公共企業体であつて、営利を目的とする業務を行うものでないから、民法第一七三条第一号に言う小売商人に該当しないのは勿論、本件広告掲載契約が同号の商品の売買又はこれに準ずるものとみることはできないから、控訴人のこの抗弁はその余につき判断するまでもなく採用できない。
三、そうすると、被控訴人の控訴人に対する本訴請求は、すべて理由があり認容すべきであつて、これと同旨の原判決は相当であり、本件控訴は理由がなく棄却すべきである。よつて控訴費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文の通り判決する。